渋谷のスクランブル交差点で写真を撮る外国人観光客を見て、「何がそんなに面白いんだ?」と首をかしげる日本人は多い。しかし彼らにとって、あの交差点は「日本でしか体験できない奇跡的な光景」らしい。一方、我々日本人にとっては単なる「通勤の邪魔」でしかない。この温度差、一体何なのだろうか。
日本人が気づかない「KAWAII文化」の威力
2024年の訪日外国人数は過去最高を更新し、彼らが日本で何にお金を使っているかを調べると、意外な事実が浮かび上がる。最も人気なのは「キャラクターグッズ」で、特にサンリオやポケモン関連商品の売り上げは前年比200%増だった。
ところが、これらのキャラクターを「日本文化の代表」と考える日本人は少ない。むしろ「子供っぽい」「幼稚」と感じる大人も多い。しかし海外では、Hello Kittyやピカチュウは「KAWAII」という概念を体現する文化的アイコンとして認識されている。パリのルーヴル美術館でさえ、ポケモンとのコラボ展示を開催したほどだ。
さらに驚くべきは「コンビニ体験」の人気ぶりだ。外国人観光客向けのYouTube動画で最も再生回数が多いのは「日本のコンビニで24時間過ごしてみた」系のコンテンツ。彼らは深夜でも明るく清潔で、あらゆる商品が揃うコンビニを「未来の店舗」として絶賛している。
一方、日本人にとってコンビニは「仕方なく使う場所」程度の認識だ。弁当の種類が豊富なことも、店員の丁寧な接客も、あまりに当たり前すぎて価値を感じない。しかし海外では、24時間営業の店舗自体が珍しく、ましてや高品質な食事が深夜に手に入るなど考えられないことなのだ。
「日本の常識」が世界の非常識
最近話題になっているのが「おしぼり文化」だ。飲食店で当たり前のように提供されるおしぼりに、外国人観光客は感動している。TwitterやInstagramには「日本のレストランでは手を拭く布がタダでもらえる!」という投稿が溢れている。
我々にとっては「当然のサービス」でしかないが、海外では有料が普通だったり、そもそも存在しない文化だったりする。アメリカ人観光客のサラさんは「おしぼりを持ち帰って記念品にした」と笑顔で語っていた。
電車の時刻表も同様だ。「電車が1分遅れたら謝罪アナウンスが流れる」という事実に、外国人は驚愕する。ドイツ人観光客のハンスさんは「ドイツでは電車が30分遅れても誰も気にしない。1分の遅れで謝る日本人は異常だ(褒め言葉として)」と話していた。
逆に、日本人が「これぞ日本文化」と誇りに思うものが、外国人観光客にはそれほど刺さらないケースもある。茶道や華道といった伝統文化は確かに尊敬されるが、実際に体験する外国人は少数派。むしろ「ゲームセンターのUFOキャッチャー」の方が行列を作っている。
食べ物でも同じ現象が起きている。外国人に最も人気な日本料理は「ラーメン」と「回転寿司」。どちらも比較的新しい食文化で、日本人が考える「伝統的な和食」とは少しズレがある。しかし彼らにとって重要なのは「日本でしか味わえない体験」であり、歴史の長さではないのだ。
観光立国を目指すなら「外の目線」が必要
この現象が示すのは、我々日本人が自国の魅力を正確に把握できていないということだ。観光庁が推進する「クールジャパン」政策も、時として的外れな方向に進んでしまう理由がここにある。
例えば、地方自治体が巨額を投じて作った「武士体験施設」よりも、普通の商店街で売っている「食品サンプル」の方が外国人観光客には人気だったりする。我々にとっては「偽物の食べ物」でしかないが、彼らには「技術力の結晶」に見えるのだ。
大切なのは「日本人の当たり前」を見直すことかもしれない。毎日使っている駅の自動改札、コンビニのレジ袋の有料化に対する几帳面な対応、電車内での静寂。これらすべてが、実は世界に誇れる「日本らしさ」なのだ。
観光立国を本気で目指すなら、まず我々日本人が「外国人の目線」で自分たちの生活を見直す必要がある。そうすれば、わざわざ巨大な観光施設を作らなくても、既に我々の周りには無数の「観光資源」が眠っていることに気づくはずだ。
結論として、日本の魅力は「非日常」ではなく「日常」にある。この事実を受け入れることが、真の国際化への第一歩なのかもしれない。
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