「幸せですか?」と聞かれて困る日本人の謎

国連の「世界幸福度ランキング2024」で日本は51位。フィンランドが7年連続1位を獲得する中、我が国は先進国の中では相変わらず低迷している。

国連の「世界幸福度ランキング2024」で日本は51位。フィンランドが7年連続1位を獲得する中、我が国は先進国の中では相変わらず低迷している。しかし街を歩けば、コンビニでは店員が笑顔で「ありがとうございました」と言ってくれるし、電車は時刻通りに来るし、夜中でも安全に歩ける。一体何が足りないのだろうか。

数字が語る日本人の「微妙な」現実

内閣府の「国民生活に関する世論調査」を見ると、興味深い傾向が見えてくる。「現在の生活に満足している」と答える人の割合は、実は2020年から微増傾向にある。コロナ禍という大変な時期を経て、意外にも日本人の満足度は上がっているのだ。

特に注目すべきは年代別の変化だ。20代の幸福感が大幅に改善している一方で、50代のそれは依然として低迷している。これは興味深い現象で、若い世代は「昭和的価値観」から解放され、多様な生き方を受け入れるようになったことが背景にあると専門家は分析する。

「終身雇用」「年功序列」といった古い枠組みが崩壊した結果、逆に自由度が増したというパラドックスだ。実際、フリーランスとして働く20代に話を聞くと、「会社に縛られない生活が楽しい」という声が多い。一方、その変化に戸惑う中高年層は、「安定した未来が見えない」という不安を抱えている。

コロナ禍が与えた影響も複雑だ。リモートワークの普及で通勤地獄から解放された人がいる一方、孤独感を深めた人もいる。ある調査では、「在宅勤務で家族との時間が増えて幸せ」と答えた人が6割を超えた反面、「人とのつながりが希薄になった」と感じる人も4割近くいた。

面白いのは地域差だ。東京都民の幸福度は全国平均より低いが、沖縄県民のそれは常に上位をキープしている。経済的豊かさと幸福感は必ずしも比例しないという、身も蓋もない現実がここにある。

「空気を読む」文化が幸せを阻む?

日本人が幸福感を表現するのが下手な理由の一つに、文化的背景がある。「みんなで一緒に苦労する」ことを美徳とする価値観が根強く、「私は幸せです」と大声で言うことに抵抗がある人が多い。

実際、同じアンケートでも質問の仕方を変えると結果が大きく変わる。「あなたは幸せですか?」と直接聞くと控えめな回答が返ってくるが、「最近良いことがありましたか?」と聞くと、途端に饒舌になる日本人は多い。つまり、幸せを感じてはいるが、それを「幸せ」として認識・表現することが苦手なのかもしれない。

SNSの普及も複雑な影響を与えている。他人の「リア充」投稿を見て落ち込む人がいる一方で、自分の小さな幸せを発信することで満足感を得る人もいる。特に「映える」グルメや旅行の写真をシェアする文化は、確実に日本人の幸福表現を変えている。

興味深いことに、最近の若者は「小さな幸せ」を見つけるのが上手だ。コンビニの新商品、推しアイドルの新曲、お気に入りのカフェでの時間。こうした「プチ幸福」を積み重ねることで、全体的な満足度を上げている。これは従来の「大きな目標達成=幸せ」という価値観からの明らかな変化だ。

働き方改革の効果も徐々に現れている。残業時間の減少、有給取得率の向上、副業解禁といった制度変更により、「仕事以外の時間」を充実させる人が増えた。ただし、これらの恩恵を受けられるのは主に大企業の正社員に限られ、中小企業や非正規雇用の人たちとの格差は広がっている。

結論として、日本人は確実に幸せになっているが、それを「幸せ」と認識・表現するのが相変わらず苦手なようだ。幸福度ランキングが低いのは、日本人の謙虚さ(あるいは自己肯定感の低さ)が原因かもしれない。

もしかすると、「幸せかどうか」を考えること自体が、既に十分幸せな証拠なのではないだろうか。少なくとも、生存に必死だった時代の人たちには、そんな余裕はなかったのだから。

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